近年、人的資本関連の情報開示の義務化等から、大企業を中心に人的資本経営が注目されています。｢人的資本｣とは、仕事をする上で必要となるスキル、知識などの総称であり、｢雇用主に対し自身の価値を高めるような専門的な価値の蓄積｣を意味します。つまり、組織で評価されるような専門性の高い知識やスキルなどのことです。

経済産業省によると、「人的資本経営とは、社員を『資本』と捉え、もっている価値を最大限引き出すことで、中期的な企業価値の向上につなげるような経営のあり方」を示します。つまり、情報を開示するだけでなく、その価値を高めることが目的であり、そのために人的資本へ投資することで、社員が自己実現や成長を目指せる環境が整い、企業に長く勤め続け、組織との一体感を持てるようになる可能性があります。

人的資本経営の前提である人的資本情報の開示およびその改善を積極的におこなうメリットは2つあります。

情報開示に向けた過程で、社員の人的資本が組織の業績や成長にどの程度寄与しているのかを客観的に把握できます。同時に自社の人的な面での強みや弱みが可視化され、他社との比較が可能になるため、企業として競争優位性の確立につながります。

自社の経営戦略との連動を図る過程で、経営戦略に合った社員像が明確化されます。さらに、現状と目指すべき姿のギャップを定量的に把握する中で、求める人材を獲得・育成する施策の実施、成果を明示する指標や目標の設定などがおこなわれ、その結果として企業価値の向上が見込めます。

人的資本経営への注目は義務化される大企業が中心であることは否めませんが、中小企業においても今後対応が迫られる可能性があります。中小企業が特に対策すべき点として以下が考えられます。

大企業と比べ、人的資本に投下できる予算等に限界があることを考慮すると、人事戦略に沿って施策の優先順位を決める必要があります。パーソル総合研究所の調査によると、人的資本情報開示で重視する要素として、｢優秀人材の採用実績の増加」、｢他社の動向｣、｢役員層の意識改革」、｢従業員エンゲージメントの向上｣、｢新卒採用エントリー数の増加｣、｢株価への反映｣の順になっています。例えば、離職者が多いことが大きな課題で人事戦略として社員のリテンション(定着)を重視している企業では、従業員エンゲージメントの向上を優先するなどの施策が考えられます。

中小企業では、経営戦略の策定に積極的に参画しながら、人事業務を統括するCHRO(最高人事責任者)など、職位を設けていない企業も多く見られます。その場合、経営トップの意欲と行動が重要です。トップ自身が社員に働きかけ、自社の理念･ビジョンや社員が目指すべき姿を発信し、社員に理解してもらうことが、人的資本経営の推進につながります。

何から手を付ければよいのかわからない、という方も多くいらっしゃると思いますので、「人的資本経営とは何か」から中小企業がおこなうべき施策を解説するセミナーを開催いたします。ぜひ、この機会にご参加ください。
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引用元
経済産業省(2022)人的資本経営の実現に向けた検討会~人材版伊藤レポート2.0
パーソル総合研究所(2022)人的資本情報開示に関する実態調査