先日、取引先のクリエイターが「若手がいきなり辞めるって言ってきて……」とぼやいていました。毎月面談を実施し、キャリアビジョンや業務量についてすり合わせ、やりたがっていた仕事にチャレンジさせようとした矢先、「ずっとしんどかったんです。辞めさせてください」と突然連絡が来たそうです。

「しんどかったのなら、どうして面談で言ってくれなかったんだ」と会社としては言いたくもなりますが、それを言い出せない空気が組織の中にあったのかもしれません。最近の若手社員は本当に敏感に場の空気を読むので、ネガティブな発言が敬遠される職場では、なかなかグチや本音なんて言ってくれない。私もまったく人ごとではないので、一緒に頭を抱えてしまいました。

突然の離職を防ぐためにはどうすればいいのか。定期的なキャリア面談や上司からの声掛けなど丁寧なマネジメントはもちろん大切ですが、それだけでは本質的な解決にはならないと思っています。今は、社員同士のコミュニケーションを活性化する様々なツールが各社から出ており、弊社からも【HR Ring】という離職防止システムが出ていますが、それらのツールを導入するだけではきっと離職が減ることはありません。大切なのはツールを正しく活用し、その結果として上司部下の関係においても、互いにグチや弱音を言い合える信頼関係を構築していくことではないでしょうか。

弊社の離職防止システムには、毎朝自分の心と体の状況を「良い、ちょっと良い、ちょっと悪い、悪い」という4つの選択肢の中から選んでスマホやPCで一言コメントともに入力する【パルス】という機能があります。回答はチーム全員に届くので、もちろん上司の回答もメンバーは見ています。

弊社でも実際に活用しているのですが、導入当初の私は何も迷うことなく「良い」か「ちょっと良い」を選んで回答していました。いやいや、そんなに毎日体と心の状態が良いわけないでしょう、と今となっては思うのですが、メンバーも見ている場でネガティブな情報発信はすべきじゃないというバイアスがかかっていたのかもしれません。

HR Ringの機能を正しく活用することを考えると、逆だったと思います。まず上司から弱音を吐くべきです。しんどいときはグチを言うべきです。それができてはじめて若手たちは「会社でグチや弱音を吐いていいんだ」「しんどいときは、しんどいって言っていいんだ」と安心できるのではないでしょうか。若手がつぶやいたほんの些細なグチにも耳を傾け、その都度一緒に解決策を考えていくことができれば、突然の離職はきっと徐々に減っていくはずです。

グチや弱音は、周囲に助けを求めるサインであると同時に、組織をより良く改善していくためのヒントでもあります。そう考えると、それほど後ろ向きなものではないと言えるかもしれません。だからこそ、日々忙しく働いている経営者や管理職の皆さんに伝えたいと思います。会社の未来を背負って立つ若手社員のためにも、ぜひ健やかにグチや弱音を発信していきませんか。