今、新卒採用において、採用ブランディングの重要性が増しています。
転職会議やVorkersといった口コミサイトが求職者の意志決定にも影響を与え始めており、採用活動における口コミの重要度が増しています。
2019年2月の東洋経済ONLINEの記事によれば、実に就活生のおよそ半数が口コミサイトを利用しているようです。
背景にあるのは、企業側の一方的な情報発信ではなく、リアルな声を知りたいという求職者の心理なのでしょう。
とはいえ、企業からすれば口コミの内容が必ずしもリアルな内容ではないと感じる場面も少なくないと思います。
そこで注目されているのが、採用ブランディングです。
目次
採用ブランディングとは?
採用活動を、『企業が求職者に自社を売り込む活動』と定義すれば、採用ブランドとは、「その会社に入社することで得られる価値を想起させるもの」と言えます。
しかしながらブランドは企業側が一方的に発信できるものではありません。
企業が提供する価値に対して、そこで働く社員はもちろん、第三者までもが確かにそうだと認めてこそブランドはできあがります。
例えば、『女性が活躍する会社』というブランディングをしたとして、実際にその企業で女性が活躍しており、更に第三者が見ても確かに活躍していると感じてもらえてはじめてブランドとして機能します。
こういった自他ともに認める、その企業で働く価値が採用ブランドと呼ばれるものです。
そもそもブランディングとは?
ブランディングとは 、自社のブランド(=商品やサービス)に対する顧客のイメージや共感性、信頼性を高めて競合他社との差別化を目指す戦略を指します。
また、ビジネスにおけるブランドとは 、商品・サービスの名前・シンボル・デザイン・ロゴなど「目に見えるもの」と、商品・サービスに対する企業のこだわりや価値、顧客との信頼関係など「目に見えないもの」を組み合わせた総称です。
通常、自社の商品・サービスを選んでもらうために、顧客に向けて周知するのがブランディングです。
これを採用の領域に取り入れ、就職・転職希望者に向けて自社をブランド化することを採用ブランディングと呼んでいます。
採用ブランディングをおこなう目的
採用ブランディングをおこなう目的は、自社が求める優秀な人材を採用することです。
企業の強みや特性、価値観などを、就職・転職希望者に向けて発信して応募増加を狙います。
ただし、採用ブランディングにおける成功は、単に応募者数を増やすことではありません。
企業の経営理念や社風に強く共感した人材からの応募を増やすことでミスマッチを防ぎ、採用のマッチング精度を高めることが最大の目的と言えます。
採用広報・採用マーケティングとの違い
採用ブランディングと混同しやすい取り組みに、「採用広報」と「採用マーケティング」があります。
これらの違いについてそれぞれ解説します。
採用広報との違い
採用広報とは、求める人材からの応募を促すべく自社の魅力や価値を伝える、採用における広報活動のことです。
企業の認知度やイメージの向上を目的に、メディアリリースやSNS発信、イベント開催などをおこないます。
採用ブランディングと異なる点は、採用広報には「自社のブランド化」が含まれていない点です。
採用広報にプラスして「自社のブランド化」までを包括的におこなう取り組みが採用ブランディングです。
採用マーケティングとの違い
採用マーケティングとは、ターゲットである就職・転職希望者や転職潜在層に自社の魅力や価値を理解してもらう取り組みのことです。
マーケティングの視点を採用活動に応用しているのが特徴です。
採用マーケティングと採用ブランディングは、ターゲット層に違いがあります。
採用マーケティングでは、ペルソナを設定して特定した求職者に向けてアプローチするのに対し、採用ブランディングは、より幅広い層をターゲットとしています。
その中には求職者だけでなく、一般の人や未来の候補者も含まれる点が大きく異なります。
採用ブランディングが注目されている背景
採用ブランディングが注目されている主な要因として以下の3つが挙げられます。
- 労働人口の減少による人手不足
- 価値観の多様化
- SNSの普及
労働人口の減少により、企業の人手不足が深刻化しています。
有効求人倍率の上昇、離職や転職による人材の流動性の高まりなどにより、優秀な人材の採用・定着に課題を抱えている企業も少なくありません。
また、働き方に対する価値観の多様化も大きな要因の一つです。
一昔前までは、企業選びにおいて高収入や福利厚生が手厚いなど外発的動機が重視されていましたが、近年の若手層の人たちは仕事に対して「やりがい」「貢献」「成長」など内発的動機を重視する傾向にあります。
そのため企業は、優秀な人材を獲得するには待遇面だけでなく、自社の強みや魅力をブランディングしてアピールしていく必要があるのです。
SNSが普及したことで、企業は手軽に情報発信がおこなえるようになったのと同様に、求職者にとっても情報収集が容易になりました。
数多ある企業の中から一人でも多くの求職者に自社を選んでもらうためには、採用ターゲットを絞った適切な情報発信が求められます。
このような状況下において、自社が求める優秀な人材を効率的に採用する手段の一つとして、採用ブランディングの重要性が高まっているのです。
採用ブランディングをおこなうメリット
採用ブランディングをおこなうメリットについてご紹介します。
ミスマッチ削減と定着率の向上
採用ブランディングは、採用におけるミスマッチの削減ができ、入社後の定着率を高めるメリットがあります。
採用のミスマッチとは、入社した人材が企業に対して「イメージと違った」とギャップを感じて離職してしまう問題です。
企業の経営理念や価値観、働く環境などに関する情報を求職者にしっかりと伝えきれていない、選考段階ですり合わせができていないといった可能性が考えられます。
採用ブランディングにより、自社の情報を求職者に的確に伝えて企業理解を深めることは入社後のギャップを減らすため、結果として早期離職の防止につながるのです。
組織力の強化につながる
採用ブランディングに取り組むことで、組織力を強化できるメリットがあります。
採用ブランディングの対象は、求職者だけではなく既存社員にもよい影響を及ぼします。
採用ブランディングを通じて自社の魅力や価値観を明確化することで、既存社員の自社に対する理解度や共感度の向上につながります。
既存社員が自社の企業理念や事業内容、強みや魅力を再認識することで、自社に対するエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
採用ブランディングをおこなうデメリット

採用ブランディングの実施にあたり注意する点はあるのでしょうか。
想定されるデメリットについて以下でご紹介します。
全社一体となって取り組む必要がある
採用ブランディングは、全社が一体となって取り組まなければ効果は期待できません。
自社の経営理念や価値観など外部に発信する内容と企業の実情に齟齬があると、「自社にマッチした人材の採用」という本来の目的を達成できない可能性があります。
また、それらは人事部だけでおこなえる作業ではないため、経営層や現場の社員を巻き込んで取り組み、誰もが納得・共感できる内容にしなければなりません。
採用ブランディングの効果を最大限発揮するためにも、全社一体となって取り組み、認識を一致させることが重要です。
長期的な運用が求められる
採用ブランディングでは、長期的な運用が求められます。
継続して情報発信をおこなうことで企業ブランドのイメージが広まり定着していきます。
短期的には効果が得られにくいため、成果を実感できるようになるには年単位での運用が必要です。
また、企業イメージに直結することから、人事担当者がほかの業務と兼任するよりは採用ブランディング専任で担当者を設けるのが理想的です。
企業のコーポレートサイトやオウンドメディア、各種SNSを駆使して、リアルタイムかつ継続的に情報を発信していきましょう。
採用ブランディングの進め方
ここでは、採用ブランディングの実際の進め方を5つのステップに分けて解説します。
自社で取り入れる際の参考にしてください。
- 自社・競合他社の分析
- 採用ターゲットのペルソナを設計する
- 採用コンセプトを定める
- 施策を提案・実行する
- 効果検証・改善
(1)自社・競合他社の分析
まず始めに、自社の分析をおこないます。
自社の魅力や強み、経営理念、価値観などを再確認しましょう。
その上で、採用市場や業界における自社の現状や競合他社との比較により、課題を洗い出します。
自社の強みを理解し、競合と差別化を図ることが、採用ブランディングを成功させるための第一歩となります。
この自社・競合他社の分析には、「3C分析」を活用するとよいでしょう。
3C分析では、「自社(Company)」・「競合他社(Competitor)」・「求職者(Customer)」という3つの枠組みをもとに内容を整理していきます。
自社と競合他社の強みや課題、採用活動における内容などを可視化することで、他社にはない自社の強みや自社に不足しているものなどが自ずと見えてくるでしょう。
もし、自社の強みが見つからなくても、そのことを認識できたことが大事な一歩となります。
また、求職者のニーズや属性、職場選びの傾向なども詳しく調べることがポイントです。
実態に即した分析ができるかどうかで、採用ブランディングの明暗が分かれると言っても過言ではありません。
視野を広げるためにも、客観的な視点で分析をおこないましょう。
(2)採用ターゲットのペルソナを設計する
つぎに、採用ターゲットのペルソナを設計します。
採用におけるペルソナとは、「30代・エンジニア・首都圏在住」といったターゲット属性に加え、「趣味・嗜好・性格・スキルセット・価値観」など詳細まで設計した人材像のことです。
より具体的にイメージできるペルソナを作り社内で共有することで、認識を統一できるため一貫性のある採用活動がおこなえます。
これにより、自社が求める人材へのアプローチ方法や伝えるべきメッセージの最適化につながり、効果的な採用戦略の立案に役立ちます。
採用ターゲットやペルソナは、以下の観点から考えるとよいでしょう。
- 人材要件を「MUST(必須)」「WANT(望ましい)」「NEGATIVE(望ましくない)」の3つに分類して洗い出す
- 経営戦略・人事戦略から逆算して人物像を決める
- 社内で活躍している人材を参考にする
- 経営者や現場の社員に、「どのような人物を求めているのか」ヒアリングする
- 競合他社にはない自社の強みが刺さる人物像にする
どれか一つの方法で設計するのではなく、それぞれの観点から多角的に考えるのが理想と言えます。
(3)採用コンセプトを定める
ペルソナを決めたら、つぎは採用コンセプトを決定します。
採用コンセプトは、採用活動における軸となる重要な要素です。
設定したコンセプトをもとに採用活動の方向性を決定するため、ここがブレてしまうと採用活動全体の一貫性が失われてしまい、効果的な活動がおこなえません。
採用ターゲットに的確にアプローチするためにも、慎重に定める必要があります。
採用コンセプトは、採用活動の方針をキャッチコピーやスローガンで表します。
自社の経営理念やミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に立ち返った上で、採用ペルソナに刺さる明確なメッセージが求められます。
候補者に自社の魅力を伝えるためにはどのような言葉が最適か、人事担当者だけでなく経営陣や現場社員のアイデアを出し合って策定しましょう。
決定した採用コンセプトは、採用活動に関わるメンバー全員で共有し、共通認識を持って取り組むことが大切です。
ここで決めた採用コンセプトが、情報発信の方法・媒体・内容の決定や候補者体験の設計などさまざまな取り組みの指針となります。
また、近年では社員が応募者を紹介するリファラル採用の導入も進んでいます。
社員一人ひとりが「自社を宣伝してくれるアンバサダー」だと捉え、社員全体に対して採用コンセプトの周知をし、人材獲得の機会創出に努めましょう。
(4)施策を提案・実行する
採用コンセプトをもとに、効果的な採用ブランディングの施策を提案・実行します。
施策においては、自社の魅力を伝えるための具体的なアクションプランの提示が求められます。
まずは、候補者となるターゲット層に的確にアプローチするために、以下のようなコミュニケーションツールの作成や見直しをおこないましょう。
- SNS
- 自社の採用サイト
- オウンドメディア
- 会社説明会、採用説明会
- インターンシップ
- 外部の就活情報サイト
- 採用動画、パンフレット、説明会スライド
- 各種イベント など
これらツールの作成は、自社の経営理念や社風、働き方といったイメージを魅力的に伝えるのに有効な手段となります。
経営者や社員のインタビュー、事業内容、職場環境などをリアルに伝えましょう。
この際、前項で設定した採用コンセプトに沿った内容とデザインであることが重要です。
企業が伝えたい情報だけでなく、ターゲットとなる候補者が求める情報を意識した内容を取り入れましょう。
採用コンセプトのテーマがブレることなく一貫性のあるメッセージを伝えることで、候補者からの理解と共感が得られるよい施策となります。
(5)効果検証・改善
採用ブランディングは、常にPDCAサイクルを回してブラッシュアップする必要があります。
その年度の採用選考を終えた段階で、施策の効果検証をおこない、具体的な改善策を検討しましょう。
通年採用の場合は、数ヵ月や半年など定期的に検証を実施してサイクルを回します。
課題を洗い出す際は、採用活動全体の課題に加え、候補者とのコミュニケーションにも着目します。
採用ブランディングでは、コミュニケーションツールにおける候補者からの反応(データ)をもとに改善点を検討するのがポイントです。
採用サイトやSNSなどのアクセス解析や説明会でのアンケート結果など、さまざまなデータから課題を洗い出し、具体的な改善点を提示し実行していきましょう。
採用活動は、社会情勢や市場、候補者など外的要因によって都度変化していきます。
そのため、採用ブランディングは構築したら終わりではなく、定期的に効果検証・改善を繰り返して育てていくことが不可欠です。
採用ブランディングのポイント
採用ブランディングのポイントについて確認していきましょう。
自社の魅力を把握する
先にお伝えしたように採用ブランドは社員が感じていることであり、第三者も認めるものになります。
そのため、まず取り組むべきは既存社員が感じている自社の魅力を把握することです。
さらには、他社ではなく自社で働き続ける理由を把握してください。
そこからブランドの輪郭が見えてきます。
例えば、価値観がフィットしていたり、仕事が好きだったり、働く仲間が好きだったり、利用しやすい制度があったり。
様々な理由があるはずなので、より具体的に深堀りしてみてください。
他にも、辞めようと思った社員が踏みとどまった理由や、転職者が自社を選んだ理由の中には、自社だけではわからない特長が潜んでいることもあります。
自社の姿勢やリアルな働き方を発信する
社員にヒアリングしても自社の採用ブランドが見えてこない場合は、自社の姿勢や働き方などを積極的に発信していくことも効果的な方法の一つです。
匿名の口コミサイトではなく、企業側がリアルな働き方をしっかりと伝えるのがポイントです。
自社の考え方や実際の仕事場面、トレードオフに直面した際に何を優先するのか、そしてどのような人と働きたいのかといった自社の価値観を発信していきます。
WebやSNSを通じて発信すれば、それがオウンドメディアとなり、共感して入社してくる人が増え、少しずつブランドの輪郭が見えてくるはずです。
重要なのは、発信する情報の軸がブレないことです。
一貫性のある情報発信により、企業のブランド力を高められます。
採用ブランディングの発信方法

採用ブランディングを効果的に発信する方法を確認しましょう。
採用HP
もっとも手軽な情報発信ツールは、採用HPです。
ここになるべくたくさんのリアルな声を盛り込んでいく。
企業にとってネガティブだと感じる部分についても、しっかりと開示していきます。
具体的には下記のようなポイントです。
- どんな人と、どんな風に仕事が進むのか
- どこにやりがいを感じる人が多いのか
- 評価されるポイントや成果を出すためのポイント
- どんな風にステップアップしてもらいたいのか
- フィットしづらい人や退職者の退職理由
とはいえ発信したくないこともあると思います。
しかし、忘れてはいけないのが口コミサイトの存在。
企業側が隠したいと思ったことも誰かが口コミサイトに投稿すると、徐々に誰もが知ることになります。
出しにくい部分は、是正していきながら自社の色を発信していくとよいでしょう。
SNS
Facebook・X(旧Twitter)・Instagram・TikTok・LinkedInといったSNSも、採用ブランディングの発信手段の一つです。
特にX(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどは多くの20代が利用しており、新卒採用や若年層の採用に有効な媒体と言えます。
SNSは、リアルタイム性が高く、企業の情報をタイムリーに発信でき、拡散性にも優れているのが大きなメリットです。
実際に、Instagramのライブ配信機能(インスタライブ)で会社説明会などのイベントをおこなう企業も出てきています。
また、SNSではコメント欄やアンケート機能を活用して、候補者とのやり取りができるのも魅力です。
企業から候補者への一方向の情報発信に留まらず、双方向の「インタラクティブ」なコミュニケーションがおこなえます。
投稿別に数値を分析できるため、どのような内容の投稿が候補者からの反応が多かったのか がわかることで、今後の投稿内容の参考にもできます。
動画コンテンツ
採用ブランディングの発信に、動画コンテンツを用いるのも有効です。
YouTubeなどの動画共有プラットフォームを活用すれば、簡単に広く発信できます。
動画は静止画や文章の何倍もの情報量を有しており、短時間でも伝えたいメッセージを的確に伝えて理解を深められるメリットがあります。
また、視覚的演出やBGMなどにより見る人の印象に残りやすいのも特徴です。
社員インタビューやオフィスツアー、会社説明会など、文章だけでは伝えきれない内容を動画コンテンツにするのがよいでしょう。
リアルイベント
会社説明会・セミナー・就活イベントなどのリアルイベントも、採用ブランディングに効果的です。
候補者にメッセージを直接伝えることで体験を共有でき、自社を強く印象づけられるのが特徴です。
質疑応答の時間や体験型ワークショップなどを開催するのも、候補者とのよい交流機会となります。
イベントの企画では、対面だからこそできる体験を提供し、候補者の興味関心を引きつけるのが重要です。
自社の強みや魅力を訴求して、採用コンセプトに沿ったイベントを作りましょう。
まとめ
採用ブランディングは、企業の採用力を高めるために有効な戦略の一つです。
自社の価値や魅力、強みを外部に発信していくことで、求職者だけでなくさまざまなステークホルダーからの共感を得るよい機会となります。
ただし、採用ブランドは、一日にしてならず。
採用ブランディングには、長期的かつ継続的な運用が不可欠です。
この記事でお伝えした内容をもとに、少しでも早く一歩目を踏み出し、自社に合う人材を採用できるようにリアルを発信しながら、課題に向き合ってみてはいかがでしょうか。

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