eNPSとは、従業員の自社に対するエンゲージメントを測る指標のことを指します。
従来のES(従業員満足度)よりも、正確に職場への意識を把握できる指標とされ、今注目を集めている調査方法です。
今回の記事では、eNPSの詳しい調査方法や導入フロー、導入する際のポイントを紹介します。
目次
eNPSとは?
eNPSとは、「親しい知人や友人に、自分の職場をどれくらい勧めたいか」を数値化し、従業員の会社に対する意識を測定する指標のことです。
「Employee Net Promoter Score(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)」の略称で、最近ではES(従業員満足度)よりも優れた手法として注目されています。
もともと大手コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーで開発された、顧客ロイヤルティの指標である「NPS」を、アップル社が従業員のエンゲージメントを可視化するために転用したところから広がったと言われています。
一般的に、eNPSが高いほど従業員エンゲージメントも高くなり、業績や生産性も高くなる傾向があるようです。
eNPSの算出方法
eNPSは、まず対象の従業員に「親しい知人や友人に、自分の会社で働くことをどれくらい勧めたいか」と質問し、0~10点までの11段階で回答してもらいます。
回答から0~6点とつけた人を「批判者」、7~8点とつけた人を「中立者」、9~10点とつけた人を「推奨者」に分類します。推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値が、eNPSのスコアです。
eNPS=「推奨者」の割合-「批判者」の割合
そのため、eNPSの最小値は-100、最大値は100となり、推奨者が増えて批判者が減るほどに数値は高く、推奨者が減り批判者が増えるほどに数値は低くなります。
日本の業界別のeNPSスコア水準
2017年、株式会社ビービットが16業界に勤める約5,000名を対象におこなったeNPSについての調査によると、全体の平均スコアは-61.1でした。
業界別に見ると、「官公庁・自治体・公共団体」が-41.3で最もスコアが高く、次いで「学校・教育産業」「建設業」と続きます。
一方低いスコアとなったのは、「出版・印刷関連産業」「サービス業」「運輸・運送業」の順でいずれも-70を下回っています。
調査結果によると、どの業界もスコアがマイナスとなっていますが、これは選択肢の中間点である5~6点が回答のボリュームゾーンとなっていることが要因であると考えられます。
フリー回答によると、「自身の職場を勧められるかどうかは相手次第なので真ん中の5~6点をつける」「自分は満足だが相手が気にいるかは分からない」という遠慮の心理が反映された結果もあるようです。
(参考:eNPS℠は何によって上がるのか ー 16業界eNPS℠調査結果)
eNPSが高い状態の企業とは?
eNPSが高い状態の企業とは、従業員の就業環境に対する満足度や働きがいが高い企業と言い換えることができます。
eNPSが高い企業の特徴を並べてみると、「キャリアパスの描きやすさ」「人事制度への納得」「ノウハウの共有」がトップ3を占めていることがわかりました。
さらに、経営層や上司への信頼感も上位にランクインしています。
また、eNPSは「マズローの5段階欲求」との間にも有意な関係性があるようです。
自己の成長の実感や経営などの参画により満たされる「自己実現欲求」、人事考課の妥当性、表彰制度、昇進昇給などの「承認欲求」が高ければ、eNPSも高い状態となり得ます。
eNPSが高い企業では、リファラル採用を実現させているようです。
自社で働く従業員に信頼できる知人を推薦してもらって採用する手法である、リファラル採用。自社の推奨度が高い従業員が多ければ多いほど、リファラル採用を意識付け、成功に導きやすくなるでしょう。
また、eNPSが高い企業は、働きがいも高い企業であることから、仕事に対するモチベーションも高く生産性の向上も期待できます。
自社への愛着を感じている従業員が多ければ、より働きやすい環境をつくったり、業務を効率化したりといった全体最適化も図れるようになるのです。
(参考:「将来像が描きやすい」企業ほどeNPSが高い傾向~特徴・業界別eNPSランキング)
eNPSの導入フロー
実際にeNPSを導入するにはどのような手順でおこなえばよいのでしょうか。導入フローを項目ごとに紹介します。
(1)プロジェクトの立ち上げ
eNPSを実施するにあたり、プロジェクトチームを立ち上げます。このチームでは、調査から施策の実行、振り返りまでを担当するのが一般的です。
その他、企画やスケジュール調整、役員への働きかけ、予算獲得などの動きもあります。
(2)調査の実施
従業員に対してeNPS調査を実施します。
eNPSの質問項目は「自分の会社を親しい人にどのくらい勧められるか」だけではなく、なぜその点数をつけたかわかるような追加質問を考えましょう。
労働環境についてや、報酬・評価について、やりがい、会社の将来についての質問ができるとよいとされています。
特に決まりはありませんが、会社の方針やサービス内容、業界に沿った内容を考えるのが一般的です。
- 労働時間に満足しているか
- 正当な報酬をもらっていると感じるか
- 顧客への貢献を実感しているか
- 会社のビジョンに共感しているか など
(3)状況の理解
調査データと既存データを元に分析し、現状の理解を進めます。
自社のeNPSスコアを、業界別の平均値と比較しましょう。同じ業界の平均値よりも著しくスコアが低い場合は、より詳細な調査と分析が必要になるかもしれません。
どの質問項目において低い評価を集めているのか分析すると、自社が改善するべき点が見えてきます。
(4)施策の策定
スコアを分析し、改善すべき点を洗い出したら、施策の策定をおこないます。改善方針を定め、具体的な改善へのプランを立てましょう。
この時、eNPSを実施しスコアを確認するだけで終えないように注意が必要です。
従業員は調査に協力する際、何かしらの改善を期待して回答するため、調査後に改善へ向けたアクションが何もない場合はeNPSがさらに下がってしまう可能性もあります。
(5)施策の実行
改善施策のプランを実行にうつし、習慣化を図ります。施策の実行、実行の確認、パルスサーベイなどの補助調査の実施をおこないましょう。
また、取り組みを一定期間以上継続したら、改めて調査を実施し指標の変化を確認します。PDCAサイクルを回すことで、よりよい組織をつくれるはずです。
eNPSを導入するべき企業とは?
eNPSはどのような課題をもつ企業に有効にはたらくのでしょうか。
eNPSが高い企業ほど従業員のエンゲージメントも高くなる傾向にあるため、生産性や離職率に課題のある企業は、eNPSを導入し改善施策を考えるべきです。
具体的に、eNPSを導入し改善に至った企業の事例を紹介します。
ヘルスケアの予防領域で数々のサービスを展開する株式会社FiNC Technologiesでは、多くの事業を立ち上げる中でエンジニアに負荷がかかり、不満の声も聞こえるようになったことから、従業員エンゲージメントの改善が課題に挙がったそうです。
eNPSの導入で「本音」ベースの課題をヒアリングできると考え、調査を実施。すると「経営陣との間にギャップを感じる」「会社の動きがよく見えない」「組織カルチャーが薄まってきている」という課題が明らかになりました。
これらの課題に対し、会議の議事録や検討資料などを誰でも見えるように共有したり、行動指針に見合った行動をした社員を表彰したりといった施策をおこなったそうです。
これらの改善を続けた結果、eNPSスコアは半年で約30ポイント上昇し、従業員エンゲージメント向上にも好影響を与えているといいます。
eNPSを導入する際のポイント
実際にeNPSを導入する際にはどのようなことに注意すべきなのでしょうか。導入する際のポイントをまとめました。
ポイント(1)eNPSのスコアだけを見ない
eNPSのスコアを見て、点数の低さだけを気にする企業も多いようです。
しかし、点数を気にするのではなく、eNPSをどれだけ高められるかが重要であることを理解しましょう。
スコアを高めるためには、どのような課題があって、どのような施策を打ち出したらよいか考える必要があります。
スコアに注目するのではなく、その点数をつけた理由に着目し、改善施策を考えましょう。
ポイント(2)改善すべきターゲットを明確にする
eNPSの回答者の分布を確認すると、どの点数をつけた人をターゲットにして改善すべきかがわかります。
例えば、批判者の中でも3~5点をつけた人が多い場合、その半分でも7~8点へ移動することができれば、eNPSのスコアも向上するのです。
ターゲットが明確になれば、おのずと改善ポイントも見えてくるでしょう。
この点数をつけた人たちがどのような状態になれば、上の点数をつけられるのかをカギにして、改善施策を打ち出しましょう。
まとめ
今回は、eNPSの概要や算出方法などを紹介しました。
eNPSを向上させることは、従業員のモチベーションやエンゲージメント向上にも効果的であることから、従業員にも企業にもよい効果をもたらすものです。
eNPS調査を実施し、自社の改善点に着目すれば、従業員が定着し活躍できる組織を作れるでしょう。
課題を感じている企業は、今回の記事を参考に、eNPSの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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