リテンション

リテンションマネジメントとは?事例から考える必要性と成功要因

優秀な人材の流出を防ぐために必要な取り組みとして、注目を集めている「リテンションマネジメント」。

実際に取り組みを成功させるためには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。今回は、リテンションマネジメントが必要とされる背景や企業事例、成功要因について解説します。

リテンションマネジメントが必要とされる背景

リテンションマネジメントとは、「人材を企業内に定着させ、継続して活躍し続けてもらうための取り組み」のことを指します。

現在では業績や年齢、経験などに関わらず、全社員に対して行うことが一般的となっています。ここでは、リテンションマネジメントが必要とされるようになった背景についてご紹介します。

少子高齢化による深刻な人材不足

少子高齢化などの影響により、日本における労働人口は今後も減少する見込みとなっています。そのような状況から、採用活動を行っても人材の獲得に繋がらず、人材不足に悩んでいる企業は増加傾向にあるようです。

2018年に中小企業庁が公表した「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命(第2-1-1図)」によると、2013年第4四半期以降全ての業種において、従業員が「不足している」と答えた企業の割合が増えていることが分かります。業種別では、特に建設業やサービス業において人手不足の傾向はより顕著であると言えるでしょう。

新たに人材の確保ができない状況では、リテンションマネジメントを強化し、社員を定着させていくことが重要であると考えられます。

離職率の高さによりリテンションマネジメントに注目が集まる

厚生労働省の「平成30年雇用動向調査結果の概況P6(表1『平成30年の常用労働者の動き』)」によると、日本企業における平成30年1年間の離職者数は7,242,800人で、離職率は14.6%という結果でした。

離職率のピーク時とされる平成26年と比べて年々低下してはいるものの、依然として社員の離職対策に悩む企業は多い状況です。

社員が定着しない企業では、採用や育成にかかるコストが増え、スキルやノウハウを蓄積することが困難になる可能性があります。安定的かつ長期的な経営を目指していくためにも、リテンションマネジメントへの取り組みが大切です。

リテンションマネジメントに取り組む前にすべきこと

リテンションの強化に向けて具体的な対策に取り組む前には、事前の準備が大切です。ここでは、リテンションマネジメントにおいて行っておくべきポイントをご紹介します。

  1. 社内の現状把握をする
  2. 自社の課題を可視化する
  3. 自社のビジョンや方向性を明確にし、社内に浸透させる

ポイント(1)社内の現状把握をする

リテンションマネジメントに取り組むにあたっては、社員の満足度や管理状況など、自社の現状を把握することが重要です。

「部署やチームにおいてどのような課題が発生しているのか」「何が離職の原因になり得るのか」を定性的、定量的に把握できるとよいでしょう。

そのための方法としては社内アンケート、社員面談を行うことが効果的です。

ポイント(2)自社の課題を可視化する

自社が抱える課題を可視化することで、どのような対策に優先して取り組むべきなのかを判断することができるでしょう。

自社が抱える課題は、離職希望者の「離職理由」から可視化することができます。そのためには、離職の「本音」を引き出すことが重要です。

社員が離職する理由はさまざまですが、会社に対する不満が引き金となるケースが多くあります。会社に対する不満を把握することで、「会社にはどのような解決すべき課題があるのか」を可視化し、リテンション強化のための対策につなげましょう。

ポイント(3)自社のビジョンや方向性を明確にし、社内に浸透させる

社員に継続して活躍し続けてもらうためには、会社のビジョンや方向性に共感してもらう必要があります。

会社がこの先どのように成長していくのかの道筋が曖昧な状況下では、何を目指して仕事をしていけばよいのかわからず、社員は不安を抱えやすくなります。

社員のエンゲージメントを向上させるためにも、自社のビジョンやミッションなどを明確化し、すべての社員に浸透させることが重要です。

リテンションマネジメントに取り組む企業事例

リテンションマネジメントに取り組む企業は、具体的にどのような対策を行っているのでしょうか。ここでは、3つの企業事例をご紹介します。

リテンションマネジメントの取り組み事例
  1. 「社内部活動」で「横の繋がり」を強化
  2. 社員アンケートをもとに研修を充実させ離職率低下を実現
  3. 新制度の導入で業界低水準の離職率を維持

事例(1)「社内部活動」で「横の繋がり」を強化

働き方改革を実践している企業としても有名な、グループウェアの開発を行うS社。S社では、リテンションを強化する施策として「社内部活動」を積極的に取り入れています。

配属部署が異なる5人以上の部員で構成すること、年数回の活動報告書を提出する条件をクリアすれば、会社から補助を受けることが可能となるようです。

これにより、日常的なコミュニケーション不足を解消し、また「横の繋がり」を形成できたため、離職率の低下に繋げることができたようです。その上、部署間の円滑な連携も生まれ、業務遂行のスピードアップと効率化も実現できたとしています。

事例(2)社員アンケートをもとに研修を充実させ離職率低下を実現

アパートの建築請負、不動産の賃貸などを行うR社では、管理職クラスの離職率が高いことが課題でした。

その理由を調査したところ、マネジメント知識や能力の違いが大きく影響していることが分かりました。また、社員アンケートの結果からも教育に対するニーズが非常に高いことが判明しました。

この調査を踏まえ、同社では管理職研修や営業力強化研修、組織マネジメントなど、教育研修を徹底して行いました。さらに「労働時間イコール評価ではない」ことをトップダウンで発信し、継続的な意識改革も実施したようです。

結果、3年以内の離職率が業界水準以下となり、他にも「労働時間の大幅削減」「有給取得率の倍増」などの成果を生み出すことができました。

事例(3)新制度の導入で業界低水準の離職率を維持

教育、福祉施設、保育施設などの運営を行うS社では、リテンションマネジメントの一つとして「キャリアチャレンジ制度」を取り入れました。これは、2年間同じ部署に在籍している社員が、新たな配属先を求めて異動申請を出すことができる制度です。

2つ目の施策として、年に1度、新規事業や業務改善の提案を会社に対して行うことができるプロデュース制度を導入しました。

教育業界における新入社員の離職率は平均40%を越えると言われている中、S社においてはこれらの取り組みの成果から、約25%と業界の中では低水準を保っています。

リテンションマネジメントのプロに聞く、成功事例と成功要因

リテンションマネジメントの専門家である青山学院大学の山本寛教授に、リテンションマネジメントに成功した企業事例と、その要因について話を伺いました。

現場のリーダーや人事担当者が取り入れやすい具体的な施策とあわせてご紹介します。

山本 寛 教授
山本 寛 教授
青山学院大学 経営学部教授
キャリア研究の第一人者

【プロフィール】
青山学院大学経営学部にて人的資源管理論を担当し、働く人のキャリア発達とそれに関わる組織マネジメント問題を専門として研究。最近では「組織のリテンション・マネジメント」にも研究テーマを広げ、近著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(日経プレミアシリーズ: 新書)では日本の人事部「HRアワード」入賞。キャリア研究の第一人者として多数の学術賞を受賞している。

「山本寛研究室」http://yamamoto-lab.jp/(参照)

これまで企業調査や研究を行う中で、効果が高かったと考えるリテンションマネジメントを教えてください。

リテンションマネジメントの成功事例として、給食センターを運営する会社の取り組みを紹介します。この会社では、多くの新入社員が早期退職してしまうことが課題となっていました。

「なぜ離職してしまうのか」を考えたところ、「新入社員同士の横の繋がり」がなかったことが理由ではないかと結論付けたようです。SNSなどの繋がりではなく、直接的なコミュニケーションの場が必要だったのです。

そこで、リテンションマネジメントとして新入社員を対象に「育成計画の体系化」を実施し、入社後1年間の間、月1回の集合研修を12回行いました。それまでの新人研修は、入社後に1度集合研修を行うのみで、その後はそれぞれの配属先でOJTによって仕事を覚えていくという状況でした。

この取り組みの結果、入社1年以内の離職者が10人程度だった状況に対して、集合研修を12回行った年の離職者は1人になったといいます。月に1度、定期的に行われる研修で顔を合わせることで、横の繋がりが生まれ、定着に繋がったのだと考えられます。

この企業がリテンションに成功した要因はなんでしょう?

仕事をしていると「続けることが辛い」「辞めてしまおうかな」と思うことは誰にでもあるでしょう。

そのような時、「横の繋がり」である同期の関係性が構築できていれば、心強い存在となります。同期同士コミュニケーションを活発に行い、大変な時に励まし合うことで、離職を思いとどめることができたケースは多くあります。

ただし、「横の繋がり」を上手く機能させていくためには、コミュニケーションの管理が必要です。「定期的な研修」という手段を通じてリテンションを強化させたこの会社は、コミュニケーションの管理も含めて成功した事例だと言えるでしょう。

反対に、あまり効果が認められなかったという事例を教えてください。

リテンションマネジメントを取り入れたものの、効果が認められなかった企業事例で多いのが、「横の繋がり」のコミュニケーションのみを重視したケースです。

横の繋がりだけを強化してしまうと、同期の中にいるインフルエンサーに影響される社員が出てきます

例えば、インフルエンサーがSNSや飲み会を通して不満を吐き出した場合、その不満が徐々に広がり、新入社員の連鎖退職に繋がることも考えられます。人事担当者はコミュニケーションの管理に注意してみてください。

リテンションマネジメントを成功させるために不可欠な要因を教えてください。

リテンションマネジメントを成功させるために不可欠な要素は3つです。

1つは同期などで形成される「横の繋がり」、2つ目は上司や管理者、経営者との「縦の繋がり」、3つ目は他部署の社員との「斜めの繋がり」です

「縦の繋がり」は、上昇志向が高い優秀な社員に対して効果的であると言われており、特に管理者や経営者からのコミュニケーションは重要な鍵となるでしょう。新入社員の多くは2年以上歳が離れた先輩社員とのコミュニケーションに大きな壁を感じてしまいがちです。

1on1、定期面談、インナーコミュニケーション、コーポレートコミュニケーションを通して密に連携をとり、経営方針などを社員に浸透させていくようにします。

リテンションマネジメントを考える上で特に重要になるのが、他部署の社員や管理職などで形成される「斜めの繋がり」です。所属部署以外の社員との関係を作ることで、上司や同僚には伝えにくい相談ができ、ジョブローテーションなどの検討もしやすくなります。

メンター&メンティー制度の導入、職場懇談会など、他部署のメンバーとざっくばらんに話すことができる機会を設けると良いでしょう。

いずれにしても、職場の経営方針をわかりやすく「翻訳」して伝えることができる存在が多方面にいることはとても重要です。本当の意味で経営方針を理解し納得してこそ、「ここの会社で働き続けたい」という想いが生まれるからです。

担当している業務が「会社の成長に繋がっている」と実感できたときに初めて、経営方針が「自分ごと」になっていきます。

現場のリーダーや人事担当者が、いますぐ取り入れられる考え方や対策などはありますか?

現場のリーダーや人事担当者が取り入れると良い対策としては、とにかく「褒めること」を制度として取り入れ、実施することです

最近では、管理職研修としてロールプレイングを通して学ぶ「褒め方の研修」を導入する企業が増えています。

どの企業でも新入社員へのケアは重要視されることが多いですが、入社して年月が経った社員ほど、褒められる機会は少なくなっていくのではないでしょうか。

褒める文化を社内に定着させるためには、まず経営層やマネジメント層自らが手本を見せることが効果的です。

例えば、朝礼時に、社長は重役や部長を社員の前で褒める、部長は課長を褒めるといった具合ですね。その様子を見ている社員にも徐々に派生していくはずです。

「褒める」を制度化したものとして表彰制度、サンクスカード、ピアボーナスなどの導入が注目を集めています。しかし、制度はあっても形骸化しているケースが多いようです。

「褒める文化を定着させること」はリテンションマネジメントを行う上では基本であり、最も効果的な施策と言えるので、積極的に取り組んでいただきたいですね。

まとめ

将来を期待し育成した社員が離職してしまうことは、会社にとって大きな痛手です。また、離職によってスキルやノウハウが流出してしまえば、重要な経営資源の損失にも繋がるでしょう。

企業が安定かつ継続的な経営を目指していくためには、リテンションマネジメントを通して社員が継続して活躍してもらうための環境づくりを行うことが不可欠です。

リテンションマネジメントの成功に向けて、まず自社が「どのような課題を抱えているのか」を正確に把握し、有効な施策を考えていくことが重要と言えるでしょう。今回ご紹介した企業事例を参考に、自社に適した対策を取り入れてみてはいかがでしょうか。

リテンションマネジメントの具体的施策についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も合わせてお読みください。

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