まだまだ辞めてほしくない若手社員の離職が止まらない。原因を究明して対策を打ちたい。
当記事では上記のような人事のお悩みに答えます。
近年、若手社員の早期離職率は平均で30%を超えているといわれており、多くの企業で課題となっています。
今回の記事では、入社2~5年目の若手社員の離職理由と、離職防止のために企業が取り組むべき4つの対策をご紹介します。
目次
早期離職とは?若手社員の早期離職率と離職理由
早期離職とは、社員が企業に就職・転職してから3年以内に離職すること。
近年、入社後3年以内に3人に1人が離職していると言われています。
厳しい就職活動や転職活動を経て内定を勝ち取り、将来への期待に胸を膨らませて入社したにも関わらず、なぜそんなに早く離職してしまうのでしょうか。
若手社員の早期離職率の現状と離職理由を探ってみましょう。
若手社員の早期離職率
厚生労働省では毎年、新規学卒就職者の離職状況を「学歴別就職後3年以内離職率の推移」として発表しています。
(出典:厚生労働省「学歴別就職後3年以内離職率の推移」)
上に紹介した大学卒の離職率の推移は、大学卒業後1年目から3年目の離職率を表したグラフです。
1995年(平成7年)以降、大学卒では約30%の人が早期離職していることがわかります。
大学卒以外でも中学卒、高校卒、短大卒共に3年以内の離職率は高い傾向にあり、若者の早期離職は社会全体の問題として捉えられています。
業界別・企業規模別の離職率比較
厚生労働省が調査した、2024(令和6)年度上半期の「産業別の入職と離職の状況」を産業別にみると、離職率は「宿泊業、飲食サービス業」が 10.9%と最も高く、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が9.9%となっています。
(出典:厚生労働省「2 産業別の入職と離職の状況」令和6年上半期)
続いて、企業規模別の離職率を見てみましょう。
厚生労働省が2023(令和5)年に実施した「雇用動向調査」によると、大企業(従業員数1,000人以上)の離職率は14.4%、中小企業(従業員数100〜999人)の平均離職率は18.7%でした。
| 企業規模(男女計) | 離職率 |
| 1,000人以上 | 14.40% |
| 300~999人 | 19.60% |
| 100~299人 | 17.70% |
| 30~99人 | 18.00% |
| 5~29人 | 15.40% |
(出典:厚生労働省「性、企業規模別入職・離職率」令和5年)
離職率の近年の推移と傾向
近年の若手社員の離職率は、2021(令和3)年の時点で、大卒者が34.9%となっています。近年の推移は、以下の通りです。
(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します」)
新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち、離職率の高い上位5産業は、「宿泊業、飲食サービス業」(56.6%)、「生活関連サービス業、娯楽業」(53.7%)、「教育、学習支援業」(46.6%)、「小売業」(41.9%)、「医療、福祉」(41.5%)です。
一方で、「製造業」や「鉱業・採石業・砂利採取業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」は、離職率が低い傾向にあります。
(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します」)
若手社員が早期離職する4つの理由
若手社員が、早期離職を選んでしまう原因について4つの理由を解説します。
- 仕事内容が自分に合わない
- 職場の人間関係がよくない
- 労働条件が整っていない
- 昇進やキャリアに将来性がない
仕事内容が自分に合わない
入社後の仕事内容が本人の適性に合っていないと、早期離職の可能性が高くなります。
特に、入社前のイメージと実際の仕事の内容にギャップがある場合には、不満やストレスにつながりかねません。
「想定外の仕事を任される」「能力以上のノルマを課される」など、仕事内容のミスマッチは早期離職の理由として多くあげられます。
職場の人間関係がよくない
職場における人間関係の不満が、早期離職の原因となることもあります。会社員は、一日の大半を仕事をして過ごしているからこそ、職場の人間関係が重要です。
また、上司の態度が人によって変わったり、高圧的な言葉遣いをされたりすることも、若手社員にとってはストレスに感じモチベーションに大きく影響します。
労働条件の不備
労働条件の不備が、早期離職の原因になることもあります。
主な労働条件から、離職につながる例として、以下のようなことがあげられます。
- 給与水準
厚生労働省が実施した「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、大卒の新卒社員の平均賃金(男女計)は24万8,300円 となっています。
若手社員は、キャリアの初期段階であり、経済的な基盤を築きたいという強いニーズを持っています。
現在の給与が低いだけでなく、将来的な昇給や昇格の見込みが低い場合、長期的なキャリア形成への不安から離職を考えることがあります。 - 残業時間
厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和5年度分結果確報」によると、就業形態計の所定外労働時間(残業時間)は10時間 でした。
しかし、これも業界や企業規模によって大きく変動します。
企業によっては「みなし残業」や「サービス残業」が横行しており、所定の残業代が支払われないケースも。
そうした勤務超過からワークライフバランスを大きく損ない、離職につながってしまうのです。 - 休暇取得率
厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」では、労働者1人あたりの有給休暇取得率は平均65.3% でした。休暇が取りにくい環境では、趣味や家族との時間、キャリアプランを考える時間を使うのも難しくなります。
しかし、社内に休暇を取りにくい雰囲気があり、申請をためらう人もいます。
結果、会社へのエンゲージメントや生産性が下がり、離職の原因になってしまうのです。
キャリア展望の欠如
従来の雇用では「年功序列」や「終身雇用」を前提にしていたため、定年まで一つの企業で勤め上げるのが一般的でした。
しかし、近年は企業に頼らず、自身でキャリアを築きたいと考える人が増えています。
若手社員が現在働いている職場にキャリアパスが見えないと感じる場合、早期離職につながる可能性があります。
具体的には、以下のような理由から離職を考えるとされています。
| キャリア展望の欠如による離職の詳細 | |
| 成長機会の不足感 | キャリア展望が不明確な場合、自身がどのようなスキルを身につけ、どのように成長していけばよいのかわからず、成長の機会が限られていると感じてしまう |
| モチベーションの低下 | 目標とするキャリア像がない、または目標達成までの道筋が見えない状況では、日々の業務に対するモチベーションを維持することが困難になる |
| 市場価値の低下への懸念 | 特定の業務に長期間従事しても、汎用性の高いスキルや経験が得られないと感じると、自身の市場価値が低下するのではないかと不安になる |
離職の理由についてさらに詳細を知りたい方は以下記事もあわせてご覧ください。
若手社員が早期退職することによるデメリット
若手社員が早期退職してしまうことで生じるデメリットについて解説します。
- 採用コストの損失
- 教育コストの損失
- 組織全体のモチベーション低下
- 企業イメージの悪化リスク
- 人材不足による業務負担と採用コストの増加
採用コストの損失
企業は、組織の成長のために、人材の採用に多大な投資をしています。
最近は労働人口の減少で売り手市場なことから、採用代行のためのサービスも増えており、人材採用コストは上昇傾向にあります。
そのため、若手人材に早期離職されてしまうと、採用活動にかけたコストと採用担当者の工数が無駄になってしまいます。
また、将来の戦力と見込んでいた人が離職してしまうと、その補填をするために追加のコストがかかってしまいます。
教育コストの損失
新入社員が業務に慣れ、会社に利益を生み出すに至るまでには、教育コストがかかります。
業務工数を割き新人教育をしたにも関わらず、早期離職されてしまうと教育にかけたコストが無駄になってしまいます。
新入社員の教育については、入社直後の研修だけでなく、実際の配属後もある程度の時間が必要です。
早期離職者が増えれば増えるほど生産性は下がってしまうため、企業として大きなデメリットとなります。
組織全体のモチベーション低下
若手社員の離職は、周囲に不安や不満を誘発し、職場の活気低下や連鎖的な離職「ドミノ離職」を引き起こします。
特に優秀な若手社員の離職は、残された社員の負担や組織への不信感を増幅させてしまいます。
ドミノ離職を防ぐには、以下のような対策が有効です。
| ドミノ離職を防ぐ対策 | |
| オープンな対話 | 退職希望者への丁寧なヒアリングをおこなった上で、全社員への情報共有で不安を解消する |
| キャリアパスの明確化 | 若手社員の成長を支援する明確なキャリアプランを示す |
| 労働条件の見直し | 給与、残業、休暇など、不満の出やすい労働条件を改善する |
| 風通しのよい組織文化 | 個人が意見を言いやすく、心理的安全性の高い職場環境を醸成する |
| エンゲージメント向上策 | 社内イベントや交流機会を設け、社員のつながりを強化する |
企業イメージの悪化リスク
離職率が高い企業は、「社員が定着しない」「働きやすい環境ではない」というネガティブなイメージを広げ、採用ブランドを大きく損ないます。
求職者は、将来への不安や成長機会の不足を感じ、応募を敬遠するようになります。
例えば、ある転職サイト では「社内でミスが発生すると、誰でも閲覧できるボードに内容や名前が記入される。自分がミスをすると屈辱感がある。同時期に20人入社したが、今となっては3人だけになってしまった」といった事例が書かれています。
株式会社ベイジが実施した「中途採用における採用サイト利用実態調査(2024年度版)」 によると、転職希望者の約52%が企業の評判を口コミサイトで確認しており、約63%が「悪い評判を気にする」と回答しています。
企業イメージの低下は、採用のチャンスを逃すだけでなく、その後の人員定着をも難しくさせるリスクの一つとなるのです。
人材不足による業務負担と採用コストの増加
人材不足は、欠員分の業務が既存社員に割り振られるため、一人あたりの業務量と責任範囲を拡大させます。
例えば、5人チームで1人欠員が出た場合、残りの4人が本来の1.25倍の業務をこなす必要があります。
これにより、残業時間の増加や疲労の蓄積、休暇取得の困難化を招き、さらなる離職のリスクを高めます。
また、再採用にかかるコストもかかってしまいます。
例として、求人広告費に平均50万円、書類選考や面接に人事担当者と現場社員の時間を合計40時間(人件費換算で20万円)、内定者の入社手続きや研修に10万円と計算すると、1人採用するために80万円のコストがかかることになります。
離職が続けば、このコストが繰り返し発生し、経営を圧迫するでしょう。
若手社員の離職防止のための4つの対策
若手社員の離職防止につながる効果的な対策を4つに分けてご紹介します。
- 経営理念と将来ビジョンを共有し企業の発展性を実感させる
- 効果的なコミュニケーションで相談しやすい職場環境を構築する
- 定期的なフィードバックと公正な評価で成長を実感させる
- キャリアデザインをサポートする
以下で詳しく解説します。
対策(1)経営理念と将来ビジョンを共有し企業の発展性を実感させる
若手社員が自社の将来に希望を持てない具体例として、「新規事業への投資が消極的で、既存事業も競合に後れを取っている」「若手の意見が全く聞き入れられず、旧態依然とした体制が続いている」「数年後の会社のビジョンや目標が示されず、成長戦略が見えない」などがあげられます。
経営理念を浸透させるために有効な具体例は、以下の通りです。
| 経営理念を浸透させるために有効な具体例 | |
| トップメッセージを発信する | 社長自らが理念に基づき、5年後、10年後のビジョンを語る動画を配信する |
| ロールモデルを示す | 半期ごとの「ビジョン実践賞」を設けるなどして、具体的な行動事例と共に表彰し、ロールモデルとして示す |
| 新入社員研修に企業の理念を理解する内容を取り入れる | 新入社員研修でワークショップを実施し、企業理念や歴史を理解する内容を取り入れる。その上で理念に基づいた新規事業を考案するグループワークをおこなう |
対策(2)効果的なコミュニケーションで相談しやすい職場環境を構築する
若手社員と効果的なコミュニケーションを取ることで、相談しやすい職場環境を構築できます。
コミュニケーションの例として、1on1ミーティングがあげられます。
1on1は、週に1回30分程度、個室やオンライン会議室などプライバシーが保たれた空間でおこなうのが理想的です。
ただし、頻度はチームや個人の状況に合わせて調整しましょう。
1on1での効果的な質問例と意図は、以下の通りです。
| 効果的な質問例 | 意図 |
| 最近、仕事で何か気になることはありますか? | 状況把握:表面化していない課題や不安を早期に発見する |
| 今週の業務で特に上手くいったこと、または苦労したことは何ですか? | 進捗確認と課題認識:業務の進捗状況と、成功・失敗要因を共有する |
| この業務を進める上で、何かサポートできることはありますか? | 支援ニーズの把握:具体的なサポートを通じて、業務効率と信頼関係を高める |
| あなたのキャリア目標や、今後挑戦したいことは何ですか? | キャリア志向の把握:長期的な成長意欲を引き出し、育成計画につなげる |
| チームや会社に対して何か意見や提案はありますか? | 組織改善のヒント:現場の視点を取り入れ、組織全体の改善につなげる |
| 今日、話せてよかったことは何ですか? | ミーティングの振り返り:ミーティングの効果を実感させる |
社内コミュニケーションを活性化にはツールも有効
社員間でスムーズに情報共有するために、社内コミュニケーションツールを活用する企業もあります。
具体的なコミュニケーションツールの例と活用事例は、以下の通りです。
| ツールの例 | 活用事例 |
| Slack |
|
| Microsoft Teams |
|
| ChatWork |
|
対策(3)定期的なフィードバックと公正な評価で成長を実感させる
会社にいる意味やおもしろい仕事に携わえるという期待が持てれば、若手社員も前向きに業務に取り組めるようになります。
定期的なフィードバックと公正な評価により、若手社員に成長を実感させることも有効な対策の一つです。
具体的なフィードバック例と頻度は、以下の通りです。
| 頻度 | フィードバック | |
| 1on1面談 | 月に1~2回 30分~1時間程度 |
|
| 360度評価 | 年に1回程度 |
|
評価基準が不透明な場合、若手社員は「何が評価されているのか」「どうすれば昇進できるのか」がわからず、不公平感や将来への不安を抱きやすくなります。
これが離職の大きな要因となります。
一方、評価基準が透明であると、離職防止につながります。
評価の根拠が明確になれば、結果に対する納得感が高まり、会社への信頼感が増します。
また、評価基準とキャリアパスが連動して示されている場合、若手社員は将来の自分の成長やキャリアアップの道筋を描きやすくなります。
単に評価結果を伝えるだけでなく、明確な評価基準を示すことで、若手社員の成長を促し、将来への希望を持たせることができます。これが、離職を防ぐ重要な要素となるのです。
具体的な評価制度の設計ポイント
若手社員のモチベーション向上には、短期的な成果と長期的な成長の両面を評価する指標が有効です。
| 評価する指標 | |
| 短期的な成果 |
|
| 長期的な成長 |
|
成長を実感できるフィードバックの伝え方
成長を実感できるフィードバックの一例として、SBIモデルがあげられます。
SBIモデルとは、状況(Situation)→行動(Behavior)→影響(Impact)の順で具体的に伝えるフィードバック手法です。客観的事実に基づき、相手に伝わりやすいのが特徴です。
SBIモデルに基づいたフィードバック例は、以下の通りです。
- ポジティブフィードバック例
「昨日の会議で(Situation)、〇〇さんの説明が非常にわかりやすくまとまっており(Behavior)、参加者の理解が深まりました(Impact)。おかげでスムーズに議論が進みました。」 - 改善フィードバック例
「先日の報告書で(Situation)、データ根拠の記述が不足していました(Behavior)。そのため、内容の信頼性が十分に伝わりませんでした(Impact)。次回からは、根拠を明記してください。」
バランスとして、まずはよかった点を伝え、その後に改善点を具体的に伝えることで、相手は受け入れやすくなります。
対策(4)キャリアデザインをサポートする
一人ひとりのキャリアプランに沿った経験やスキルを仕事で得られるようにフォローすることも離職防止策となります。
達成できそうな目標を設定させるなどの工夫をし、必要に応じて研修などでスキルを付与するようにしましょう。
20代の半ばを過ぎた社員は、性別などの属性によってキャリアの描き方が大きく違ってくるため、個別でアプローチの仕方を変えることも重要です。
キャリアや成長、収入、ワークライフバランスなど、何を重要にしているのかを共有しましょう。キャリアイメージに沿う選択肢を提示することが大切です。
若手向けキャリア面談の実施方法
若手向けのキャリア面談は、キャリアデザインの設計をサポートする上で重要です。
面談は半年に1回程度、1時間を目安に実施します。
内容は、現状の業務やキャリア目標、必要なスキル、会社からの支援策などを話し合います。
面談後1週間以内に議事録とアクションプランを共有し、進捗を定期的にフォローアップしましょう。
キャリアパス可視化ツールとして、主に以下のようなものが有効です。
- カオナビ:人材の基本情報に限らず、過去の評価やスキル、キャリアといった幅広いデータを可視化
- SmartHR:人材データを基にしたスキル管理や人事評価、配置シミュレーションなどのタレントマネジメント機能あり
- HRBrain:プロフィールやスキルなど人材データを一元管理。蓄積データは1on1ミーティングのサポート、管理職の育成などに活用可能
スキルアップ支援制度の事例
スキルアップ支援制度導入により、離職防止に成功した企業の事例をご紹介します。
1社目はキャリアアップ支援をおこなったR社の事例です。
R社ではエンジニアのキャリア形成に注力するものの、社員のモチベーション低下による休職・離職が増加していたとのこと。
そこで、自社でエンジニアとして活躍できるようキャリアアップ支援を強化。
社員の仕事の不安やキャリアに関する相談を受ける機会も設けました。その結果、四半期の休職者数が、5〜6人から1〜2人に減少したそうです。
2社目はグローバル人材やデジタル人材の育成をおこなったT社の事例です。
T社では、事業環境の変化に対応するため、生産性の向上が必要な状況でした。
そこで、海外で活躍できる人材や、異業種との交流から新しい価値を創出できる人材の育成に注力。
グローバル人材やデジタル人材を選抜して育成する研修も実施しました。
これらの取り組みにより、新卒3年後における定着率が86%(2019年)から97%(2021年)に改善しました。
若手社員の自己啓発を促進したい場合は、まず予算設定をしましょう。
社員数と一人あたりの上限額、補助対象範囲、自社の戦略との連動などから、予算総額を決めます。
その後、申請フローや実施内容、補助金支給方法、制度の周知方法などを決め、制度を運用します。
運用中には効果測定と改善を適宜おこなうことで、若手社員を含む全社員の主体的な学びを促進し、個々の成長と組織全体の活性化につなげることができます。
現代の若手社員の価値観と特徴
現代の若手社員(Z世代を含む)は、キャリア志向が高く、安定だけでなく自身の成長やスキルアップ、社会への貢献を重視する傾向があります。
多様性への意識も高く、性別・国籍・性的指向など、様々な違いを尊重し、インクルーシブな環境を求めているのが特徴です。
また、情報リテラシーが高く、SNSなどを通じて企業文化や働き方をリアルタイムに把握する傾向があります。
企業には、これらの価値観を理解し、柔軟な働き方や成長機会の提供、多様性を尊重する職場環境の整備が求められます。
ワークライフバランス重視の傾向
厚生労働省委託事業の「イクメンプロジェクト」が2024年に実施した「若年層における育児休業等取得に対する意識調査 」の結果によると、「新卒で入社をする会社を選ぶ際に、将来の仕事(キャリア)とプライベートの両立を意識しているか」の質問に対し、77.9%が「両立を意識している」と答えました。
この結果から、若手社員の多くがワークライフバランスを重視していることがわかります。
社員のワークライフバランスを充実させるには、リモートワークやフレックスタイム制の導入など、社員が働きやすい職場環境を整備することが大切です。
そうすることで、個々のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を実現できます。
若手社員であっても、将来のことを見越して、育児や介護のサポートが充実している企業へ転職を考えることもあります。
そのため、実際に制度を利用して育児・介護と仕事を両立している社員がいれば、その人がロールモデルとなり、若手社員の離職防止につながるのです。
Z世代・ミレニアル世代の特徴と対応策
Z世代とミレニアル世代の価値観の違いをまとめました。
| Z世代 (1990年代後半~ 2010年代初頭生まれ) |
ミレニアル世代 (1980年代~ 1990年代半ば生まれ) |
|
| 仕事観 | ワークライフバランス重視、実利主義 | 社会貢献意識、成長意欲、自己実現 |
| キャリア観 | 副業・複業への関心高め、スキルアップ重視、転職への抵抗は低め | キャリアアップ志向、経験重視、転職は手段と考える |
| コミュニケーション | デジタルネイティブ、テキスト・動画中心 | デジタルと対面の両方 |
| 多様性意識 | 高い、フラットな関係性重視 | 比較的高い |
Z世代への有効なマネジメント方法は、以下の通りです。
- 明確な目標とフィードバック:
短期的な目標設定と頻繁なフィードバックで達成感を提供。
成果だけでなくプロセスも評価する - 柔軟な働き方の提供:
テレワーク、フレックスタイム制など、多様な働き方を認め、自律性を尊重する - 多様性とインクルージョン:
多様な価値観を受け入れ、オープンでフラットなコミュニケーションを促進する
一方、ミレニアル世代への有効なマネジメント方法は、以下になります。
- 成長機会とキャリアパス:
挑戦的な仕事や責任ある役割を与え、明確なキャリアパスを示す。
メンター制度や研修制度も有効 - 目的意識と社会貢献:
仕事の意義や社会への貢献を伝え、共感を醸成。
ボランティア活動への参加支援なども検討する - オープンなコミュニケーション:
対話を重視し、意見やアイデアを積極的に聞き入れる。
フラットな組織文化を醸成する
若手社員の離職防止のためにできることとは?
若手社員の離職を防ぐための実践的なアプローチとして、以下の例があげられます。
若手社員の退職を防ぐために、採用活動の段階から候補者に正しく自社を理解してもらうことが大切です。
企業の魅力のみを決め手として入社してきた若手社員は、実際の仕事の内容とのギャップによって早期離職してしまうケースがあります。
自社の魅力だけではなく、実際の仕事の内容や風土などを正しく情報発信することで、理想と現実のギャップを防げます。
採用後のミスマッチ軽減の施策について、P社では、就活生に近い年齢の社員が自らの声を発信することで、入社後のミスマッチの防止に成功しています。
若手社員の離職防止には、職場への早期順応をサポートするオンボーディングが有効です。
例えばメンター制度を導入して定期的な面談をおこなったり、段階的に業務を割り当てていったりすることで業務への順応を促進できます。
また、オンボーディングは社内全体で人材を育成する取り組みのため、部署を超えて連携することで、コミュニケーションの活性化も期待できます。
オンボーディング施策について、S社では、新入社員向けのオンボーディングプログラムを導入。
入社1~3カ月のメンバー同士の食事会や、集合研修などを実施したところ、早期退職者の割合を抑えることに成功しました。
社員が何に不満を感じているのかを調査する方法として、従業員満足度調査やサーベイがあります。
従業員満足度調査とは、社員が企業に対して感じている満足度を図るものです。サーベイは、社員の不満や課題などを把握し、改善につなげるための調査方法です。
これらを定期的に実施することで、若手社員の不満や課題をタイムリーに把握でき、課題に対する改善策を講じることで、若手社員のモチベーション向上や離職防止につなげられます。
従業員満足度調査やサーベイの施策について、F社では、サーベイの活用で社員の心理状態を可視化できるようになり、離職可能性のある社員に対して「どのような手を打つべきか」がわかるようになったことで、離職防止に成功しています。
離職の兆候を早期に察知するポイント
離職の兆候となる行動パターンと、察知した場合の声かけ例をご紹介します。
| パターン | 特徴 | 声かけ例 |
| 遅刻・欠席の増加 | 明らかな理由のない遅刻や当日欠席が増える | 「最近、体調が優れないですか?何か困っていることがあれば遠慮なく相談してください。」 |
| 業務への意欲低下 | 以前は積極的だった業務への関与が減り、責任を回避するようになる | 「〇〇さんの意見はいつも参考になります。最近何か気になることがあれば教えてください。」 |
| 不満や批判的な発言の増加 | 仕事内容、評価制度、会社の方針などに対する不満を漏らす | 「〇〇さんがそう感じるのは、何か理由があるのですね。もし差し支えなければ、詳しく聞かせていただけますか?」 |
| 将来への不安を口にする | 「このままでいいのか」「自分の成長が感じられない」といった発言が増える | 「〇〇さんのキャリアについて、何か考えていることはありますか?もしよければ、一緒に今後のことを話してみませんか」 |
人事担当者やリーダー層に必要な若手社員の離職防止意識
人事担当者とリーダー層は、若手社員の離職防止を「コスト」ではなく「投資」と捉える意識改革が不可欠です。
彼らの成長こそが組織の未来を左右するという認識を持ち、短期的な成果だけでなく、長期的な育成視点を持つとよいでしょう。
具体的には、若手社員の価値観を理解し、成長機会の提供、心理的な安全性の確保、公正な評価、キャリア面談の実施などを通じてエンゲージメントを高めることが重要です。
離職の兆候を早期に察知し、個別的なサポートをおこなう意識も大切です。
大手企業と中小企業で若手社員の早期離職防止のための対策の違い
若手社員の早期離職率には、中小企業と大手企業で違いがあります。
中小企業は大手企業よりも手厚い研修が少ない傾向があるものの、若手でも仕事を任される環境にあるため、若手社員の成長のスピードは早いことが多いです。
販売や営業職では若手のころからクライアントと接する機会も多く、優秀な人材は引き抜かれる機会も多々あります。
また、部署が少なく仕事の領域が狭いため、やれることの限界があり、先を見据えやすいという面もあります。
中小企業ほど手厚くテコ入れして、若手社員の離職防止に取り組む必要があります。
一方、大手企業では、部署異動などで違う業務に就ける確率が高いので、チャレンジの選択肢も多い環境にあります。
そのため、入社3~5年目ではまだ見切りをつけずに、30代前半や40歳前に離職が多くなる傾向にあります。
企業規模に関わらず、辞めさせたくない人材は他社から見ても欲しい人材です。
キャリアプランに寄り添ったチャレンジ支援をおこないましょう。
離職防止に成功した企業の事例分析
離職率を大幅に改善した企業の事例をご紹介します。
自社の課題解決の参考にしてください。
まずは退職者を約52%減らすことに成功したA社の事例です。
A社では業界未経験者(他業種からの転職者・新卒者)の離職者が多いことと、半数を超える女性従業員の定着化が課題でした。
その解決に向け、「3年間で契約社員を正規雇用従業員へと任用替え」「産・育休後、希望に合わせて配置転換」「定期的なキャリア面談」などの施策を実施したそうです。
その結果、4年間で退職者を約52%減らすことに成功しました。
次に、入社3年以内の離職率を0%を実現したK社の事例をご紹介します。
K社では価格競争や短納期対応に追われ、従業員が疲弊するという構図が常態化していました。
豊かな働き方を実現するため、「メンティがメンターを指名して定期面談」「週単位での面談実施と社長によるフィードバック」「成果よりもチャレンジしたことに対する評価制度」などを実施しました。
K社はそれらの改革に10年かける覚悟でしたが、離職防止の取り組みを始めて3年で、入社3年以内の離職率0%を実現しました。
最後に離職率が大幅に改善されたH社の事例です。
H社では、急速な事業成長と店舗拡大に伴う人材難が大きな課題としてありました。
採用を強化するものの新人教育が上手くいかず、2016年には新入社員17人のうち5人が離職する事態に。
そこで、最優先事項として人事部による退職者面談を導入。
全社的立場である人事が実施することで、退職者は本音を話しやすくなりました。
さらに管理職への登用基準を明確化し、教育体系を整備するなどしたところ、2017年には15人の新入社員のうち退職者は1人だけとなり、離職率は大幅に改善しました。
オンボーディングプログラムの効果的な設計方法
入社後3ヶ月間の具体的なオンボーディングプログラムの設計例は以下の通りです。
| 期間 | 内容 | 担当 |
| 1週間目 | 会社概要や組織図の理解、就業規則説明、部署紹介、自己紹介、OJT担当・メンター紹介、歓迎会 | 人事、配属部署の上司 |
| 2週間目 | チーム内業務オリエンテーション、基本業務レクチャー、OJT担当による実務指導開始、メンターとの初回面談(目標設定、不安共有) | OJT担当、メンター |
| 1ヶ月目 | 業務進捗確認、課題ヒアリング、部署内研修、メンターとの定期面談(進捗確認、キャリア相談)、人事面談(入社後の状況確認) | OJT担当、メンター、人事 |
| 2ヶ月目 | 中間目標レビュー、専門スキル研修開始、チーム内外交流促進、メンターとの定期面談(課題解決サポート、目標再設定)、人事アンケート(満足度調査) | OJT担当、メンター、人事 |
| 3ヶ月目 | 最終目標レビュー、OJT担当からのフィードバック、今後のキャリアパスに関する面談、メンターとの最終面談(振り返りと今後の関係性)、人事面談(成長実感、課題、要望ヒアリング) | OJT担当、メンター、人事 |
まとめ
今回は、若手社員の早期離職の原因と対策について解説してきました。入社3年以内の早期離職は平均で3割以上に及びます。よくある離職理由は以下の通り。
- 仕事内容が自分に合わない
- 職場の人間関係がよくない
- 労働条件が整っていない
- 昇進やキャリアに将来性がない
それに対する有効な4つの施策は以下の通りです。
- 経営方針への理解を深め、企業の発展性を共有する
- コミュニケーションを活性させ相談できる雰囲気を作る
- フィードバックと評価で目標と課題を意識させる
- キャリアデザインをサポートする
若手社員は仕事の楽しみを感じ始めながらも、不安や悩みを打ち明けられずに離職してしまう傾向があります。
育成に時間をかけた若手社員が早期離職してしまうのは、企業にとっては大きなデメリットです。コミュニケーションを活性化させ、意見を言いやすい職場環境作りを心がけましょう。
キャリアプランのすり合わせをして、企業としても社員の将来に寄り添うことが若手社員の離職防止につながります。
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