新人研修の一環として導入されることが多い「OJT研修」。
OJT研修とは、上司や先輩が指導役となり、部下や後輩が実務を通して知識やノウハウを獲得できる施策のことを言います。
導入を検討しているものの、どのような仕組みで実施すれば良いのか方法や進め方がわからず、導入に踏み込めていない企業もあるのではないでしょうか。
今回の記事では、OJT研修におけるメリットや導入フロー、注意点などについて解説していきます。
目次
そもそもOJTとは
OJTとは、「On-the-Job Training」の略称で、現場で実践しながら必要な知識やスキルを身につける研修手法のこと。
新入社員や若手社員を対象に、経験豊富な先輩社員がトレーナーとして実際の業務を指導するのが一般的です。
業務をおこないながら学ぶスタイルなので、ただ説明を聞くだけの研修などと比較すると即戦力としてより実践的な知識を習得できます。
マニュアルや座学だけでは身につきにくい知識やスキルを伝えられるのが大きな特徴です。
OJTとOff-JTの違い
OJTとよく比較されるキーワードにOff-JTがあります。
「Off-the-Job Training」の略称で、OJTとは反対に実際の業務を離れておこなう教育手法のことを指します。新入社員研修や管理職研修、個人のスキルを高めるための研修など、さまざまなOff-JTがあります。
対照的なOJTとOff-JTですが、実際の教育現場では2つを組み合わせておこなうことが多いです。Off-JTを通じて基本的な知識をインプットしてから、OJTで実践するアウトプットの場を設けることで、業務に必要な知識の定着を促し研修効果を高められます。
OJT研修とは
OJT研修は、実際に業務を進めながら育成をおこなう方法で、早期業務取得を目的に、新人研修として導入している企業が多くなっています。
指導役は同部署の先輩社員や上司が担い、新入社員や他部署から異動してきた社員が指導の対象者となります。
実務を行いながら先輩や上司のアドバイスを受けられるため、効率よく知識や技術を身に付けられると考えられています。
OJT研修における3つの原則
OJT研修は、3つの原則を念頭に置いて行うことで、質を保てるとされています。その3つの原則についてご紹介します。
- 意図的:トレーニングを行う目的や目標を明確にすること
- 計画的:十分に企てられた育成計画に基づいてトレーニングが行われること
- 継続的:反復的、段階的に継続したトレーニングが行われること
なぜOJT研修を行うのかを明確にすることで、指導する側も指導を受ける側も能動的に研修に参加するようになるでしょう。
また、単発な指導とならないよう、育成計画を十分に立て、反復的かつ段階的に継続したトレーニングを行っていくことが重要です。
OJT研修によって得られる5つのメリット
OJT研修を行うことによって、どのような効果が得られるのでしょうか。5つのメリットをご紹介します。
- 能率的に教育できる
- 管理職やリーダーの育成につながる
- 社内コミュニケーションが活性化する
- 即戦力となる人材を育成できる
- 業務内容やフローの可視化
メリット(1)能率的に教育できる
OJT研修では、指導者が1対1でアドバイスをするため、指導を受ける社員の状況に応じて内容やスピードを変更できます。一人ひとりに合わせて研修を進められるので、能率的な教育に繋がるというメリットがあります。
また、OJT研修は日常の業務の中で新入社員に指導をしていくため、低コストで実施できるもの大きなポイントです。新人研修と並行してOJT研修を行えるので、短い期間で効率的に育成できると言えるでしょう。
メリット(2)管理職やリーダーの育成につながる
OJT研修の指導担当者は、自分の業務と並行して新人社員の指導を行うため、部下を育成するマネジメントスキルを自然と身につけることができます。
OJT研修を行う中で、効率的な業務の進め方などを考える機会が増え、指導者自身のスキルアップも期待できるでしょう。
OJT研修の指導者の中から、特出したマネジメント能力を見せた従業員に対しては、リーダーや職務を任せるなど、管理職として育成していくこともできます。
メリット(3)社内コミュニケーションが活性化する
OJT研修では、先輩や上司にわからないことを相談する場面や、先輩や上司から「わからないことはあるか」と質問をする場面が多く生まれます。
これらが繰り返し行われることによって、社内のコミュニケーションはどんどん活性化していくでしょう。社内が活性することで、新入社員の心理的安全性も保たれ、研修をより効果的に進めることができます。
また、OJT研修により「組織の一員として働く」という意識も生まれやすく、その過程で信頼関係や仲間意識なども育まれていきます。組織全体の連帯感の向上も期待できるでしょう。
メリット(4)即戦力となる人材を育成できる
OJT研修は実践を通して学ぶことができるため、研修後すぐに活躍できる人材を育成することができます。
変化のスピードが著しく早いビジネスの世界において、いかに早く実務でのコツをつかむかは、事業の生産性を向上させる上でも重要となってくるでしょう。
実践を通した学びで、即戦力となるスキルや問題解決力を身につけられます。
メリット(5)業務内容やフローの可視化
新入社員に向けて研修を行うにあたっては、業務内容やフローを明確にし、わかりやすく伝えられるよう整理する必要があります。
その際、業務過程の習慣化により生まれた無駄や非効率な作業を見つけることができるでしょう。
さらに、属人化されていたタスクを可視化することもできます。業務内容やフローを改めて見直すきっかけにできます。
OJT研修のデメリット
多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。
立場 | デメリット |
教えられる側 | ・指導者の教え方(能力)により効果に差が出る ・知識が偏りやすく、体系的に学びにくい |
教える側 (企業側) |
・教育計画やマニュアルの作成などに手間がかかる ・直接的に成果を生み出す業務以外にリソースを割くことになる |
OJTを実施する際には、知識が偏らないよう適宜Off-JT研修と組み合わせるなど、工夫が大切です。
OJT研修の導入フロー
OJT研修を実際に導入する際、どのようなフローで取り入れるとよいのか、気になる方もいるのではないでしょうか。具体的な導入フローをご紹介します。
- OJT研修の目標を設定し、計画書を作成する
- 指導者を選出し、目標達成の目安を立てる
- OJT研修の実施、中間面談を設定する
- 計画書における目標の達成度を計測する
- OJT研修の分析事項などを各部門にフィードバックする
ステップ(1)OJT研修の目標を設定し、計画書を作成する
はじめに、OJT研修における目標を設定します。中間地点や終了時点で「どのような社員になっていてほしいのか」を明確にしましょう。
目標は細かく設定することで、柔軟な対応へとつながります。
また、目標達成のために「どのくらいの期間を要するか」「どのくらいのペースで進めるべきか」など、具体的な計画を考えましょう。スケジューリングや進捗管理がしやすいツールを用いると、計画を立てやすくなります。
ステップ(2)指導者を選出し、目標達成の目安を立てる
OJT研修の計画が整ったら、指導者の選出をします。指導者として力を発揮できそうな人物であり、入社して数年経過している社員を対象にするとよいでしょう。立候補制にすれば、より能動的に活躍できる指導者を選ぶこともできます。
その後、指導者と人事、マネージャーたちと共に、OJT研修における目標や具体的な実施方法、注意事項などを共有して、指導者の意識統一を行います。
そこで、目標達成の進捗状況を把握するための具体的な測定方法を作成しましょう。スキル一覧や手順などのマニュアルがあると便利です。
ステップ(3)OJT研修の実施、中間面談を設定する
ここで、指導を受ける者を配属してOJT研修の実施します。
研修期間中、上司やマネージャー、指導者と新入社員の3者で話し合う機会を設けましょう。目標に対しての進捗状況や、問題点・疑問点などを丁寧にフィードバックします。
何度か話し合うことでより、研修の精度を上げることができるでしょう。
ステップ(4)計画書における目標の達成度を計測する
OJT研修が終了する際に、計画したスキル表や工程表を見ながら目標における達成度を計測します。
また、研修内容や指導側、指導を受ける側からアンケートを取ることで、良かった点や改善すべき点を見つけることもできます。
次回からのOJT研修の精度をより高めるために、両者の満足度や成果についても尋ねてみましょう。
ステップ(5)OJT研修の分析事項などを各部門にフィードバックする
最後に、目標の達成度から見えたものやOJTに関して解明したものなどを、各部門にフィートバックしていきます。
社内やチーム内でフィードバック内容を共有することで、受け入れ体制がどうだったのかやマネジメント面での課題を知ることができます。
効果的なOJT研修を実施するための6つのポイント
ここでは効果的な業務指導を実施するための6つのポイントを紹介します。
それぞれのポイントを押さえ、効果的なOJT研修を実施しましょう。
- 指導者が「やって見せて」業務の全体像を伝える
- 業務内容は具体的な言葉で伝える
- 実際にその業務を「1人でさせてみる」
- 毎回具体的なフィードバックを伝える
- 若手社員の傾向を把握する
- 指導者の内省を支援する
ポイント(1)指導者が「やって見せて」業務の全体像を伝える
まずは、業務の全体像を把握するところから始めましょう。その際指導者が「やって見せて」あげることで、言葉だけでは伝わりづらい具体的な業務内容がイメージしやすくなります。
新入社員は業務を1から覚えるため、「わからないことが何かわからない」状況にあります。まずは、真似をしてもらうことから始めると覚えやすいでしょう。
ポイント(2)業務内容は具体的な言葉で伝える
具体的な業務内容は、言葉での説明が必要となります。業務の進め方だけでなく、目的や背景を伝えしっかり理解してもらうことが重要です。
また、誰が指導しても同じ内容のことを伝えられるよう、指導マニュアルなどを作成するとよいでしょう。
ポイント(3)実際にその業務を「1人でさせてみる」
実際に業務を1人でおこなうことで身につくこともあります。指導者も指導を受ける者も「1人でできるか」と不安を感じることがあるでしょう。
始めは隣で見守り、安心してできるようサポートします。そこから徐々に1人でおこなう作業を増やしていきましょう。
また、参加者の学習定着率向上のため、研修内容にワークショップやケーススタディを取り入れるのもおすすめです。ワークショップは、研修で学んだ知識や経験を振り返るよい機会となります。
例えば、教育のゴール設定やそれに伴う業務の選定などをワークショップに取り入れることで、長期的な視点を持つことにつながるでしょう。
さらに、ケーススタディでは「実際に起こりうるケース」を用いてディスカッションやロールプレイングすることで、具体的にイメージできるため臨機応変に動けるようになります。
ポイント(4)毎回具体的なフィードバックを伝える
研修を受けている社員に対し、できていたこと・できていなかったことについて、具体的なフィードバックをしましょう。
具体的かつポジティブな言葉で伝えると、新入社員の自信や改善にもつながりやすいため、フィードバックの効果は高まります。
フィードバックのためのシートを事前に用意することで、指導を受ける側も理解がしやすく、振り返りを深めることができるでしょう。
ポイント(5)若手社員の傾向を把握する
OJTを実施する指導者は、対象者の若手社員の傾向をあらかじめ理解しておきましょう。
特に、昨今の若手社員は「言われたことは確実にできる一方、失敗を極端に恐れて行動できない」傾向があると言われています。
例えば、難しい業務を任せられたとき、対象者は指導者からの低評価を恐れて自身が不安を抱えていることを相談できないケースもあります。
もちろん個人差はありますが、積極的に対象者とコミュニケーションを取り、一人ひとりの傾向を把握した上でOJTを進める必要があります。
定期的に面談を実施するなど、対象者が気軽に相談できる環境づくりは必須です。心理的安全性を確保するだけでも、OJT研修の効果は大きく変わってきます。
ポイント(6)指導者の内省を支援する
指導者が実施したOJT研修を振り返る機会を設け、内省を支援することも大切です。
OJT研修を通じて指導者自身が何を学んだのかを見返すことで、よかった点や次の研修に向けての改善点などの気づきを促します。
このとき、指導者の上司や管理職は、指導者に対して考え方や見方を押し付けないように注意しましょう。あくまでも指導ではなく支援を心がけてください。
また、指導者のスキルを底上げするためには、自己の振り返りだけでなく継続的な教育が必要不可欠です。指導に必要なスキルや心構えを事前に伝えて、指導力の向上を図ります。
OJT指導者の教育には、eラーニングの活用もおすすめです。eラーニングであれば、時間や場所にとらわれず隙間時間で勉強できます。
OJT研修を実施する際の注意点
OJT研修を実施する中で、起こり得る問題がいくつかあります。
「1人の指導者に任せきりになる」「指導者が多忙で新人が放置される」「指導者によってスキルややる気が違う」などがあります。
そのような課題が発生しないよう、注意が必要です。OJT研修のやり方に関する注意点を3つにまとめました。
- 指導者の負担を考慮
- PDCAサイクルの意識
- 組織一丸となって促進
(1)指導者の負担を考慮
指導者自身も業務を進めながら新入社員を見ていくため、業務に支障が出そうだと感じた場合は、研修がおろそかになる可能性があります。そのような場合には、指導者の変更や配置を変えるなど、調整を行いましょう。
また、指導者としての業務が自身の評価に繋がらないことから、士気が下がってしまう指導者もいるようです。研修でのマネジメントがどのように評価されるのかを事前に伝えると、納得して取り組むようになります。
(2)PDCAサイクルの意識
OJT研修では研修の効果をより早く検証するために、PDCAサイクルを意識して実施しましょう。
まず、習得すべきスキルを明確にして目標を立てます(Plan)。OJT研修の指導者に目標を伝え、指導者から新入社員に適切なフィードバックを行います(Do)。上司やマネージャーと指導者、指導を受ける者で目標達成度の確認(Check)をし、達成度を踏まえた改善点を明らかにする(Action)という流れで行います。
PDCAをスピーディーに繰り返すことで、研修の内容をより深めることができます。
(3)組織一丸となって促進
指導者1人に負担がかかることを避けるため、上司や他の社員は「任せきりにしない」という意識を持つことが重要です。
指導者以外のフォロー体制を構築する、相談窓口となる社員を配置するなどの配慮をすることで、指導する側・される側双方の負担を軽減することができます。
まとめ
OJT研修とは、実際に業務を行いながら指導をしていくことにより、業務取得を効率的に進められる人材育成法です。
「即戦力となる人材を育成できる」「育成コストがかからない」「マネジメントスキルを向上させられる」などといったメリットが期待できます。
導入の際には業務フローの確認やマニュアルの作成が欠かせませんが、それにより業務フローを見直すきっかけにもなります。今回の記事を参考に、OJT研修を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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