【山口大学知財教育プログラム(履修証明プログラム)】他人事ではない知的財産教育とは?

陳内秀樹氏の画像

「知的財産の重要性が一般社会でようやく認識され始めていることは、大きな進歩です」。山口大学知的財産センターの准教授である陳内秀樹氏は、そう言ってほっとした表情を見せた。

2023年5月、ゲーム実況配信者が著作権法違反の容疑で初めて逮捕されたことがニュースで大きく取り上げられた。この一件を受け、ゲーム実況配信が著作権法違反のリスクがあることが一般にも広く認識されるようになった。

過去には、高級ブドウ『シャインマスカット』の苗を販売目的で保管していたとして、種苗法違反(育成者権の侵害)として書類送検される事件も起こっている。

知的財産と聞くと、音楽や映画、特許発明などのイメージが強く自分には関係ないと思う人も多いが、陳内さんは「誰もが知的財産をを創出する立場にある時代」と話す。

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ネット社会で生きる上で知的財産の知識が不可欠

「知的財産教育は、弁理士や弁護士、行政書士など知的財産に関わる専門家が学ぶ分野として認識されていました。しかし、近年は幅広い職業や一般の人々にも知的財産の知識が求められています」 その背景には、国際社会における日本の産業競争力の低迷や知財戦略を支える人材不足などが挙げられる。

「インターネットの普及に伴い、国際的な取引やオンライン販売など、企業のビジネスモデルは多様化しています。また、個人でも簡単に創作活動やそれを活用したビジネスを行うことができるようになりました。知的財産の管理と保護がますます重要となるため、自社の技術やアイデアや著作物を保護するための知的財産戦略を策定し、それを実行するための知識が必要不可欠です」

小泉純一郎元首相は、2002年に「知財立国宣言」を行い、知的財産教育を強化する取り組みを打ち出した。小学校から大学まで、知的財産教育の充実を図るというもの。さらに、知的財産に関する知識の普及啓発にも力を入れ、国民一人ひとりが知的財産を理解し活用できる社会の実現を目指す。

このように20年以上前から知的財産教育の取り組みはあったが、その動きは緩やかで一般社会にはなかなか浸透しなかった。知財教育に対する認識や関心はあっても、カリキュラムや教材が整備されておらず、教育する人材の不足もその要因のひとつである。

知財教育の必要性について

図 知財教育の必要性(専門家養成に加え知財創造の担い手育成として)

「これまで全国の大学でも1回90分の単発講座や弁理士を招いたセミナーなど、知的財産に触れる機会はありました」

それらは知的財産を業務で扱う職員等を対象にした専門性の高いもので、一般企業に務める人が、体系的に学べる機会は限られていた。

「今は、テクノロジーの進展やグローバル経済の変化が激しい時代です。一人ひとりが他者の知的財産を尊重し、また、自分が創作したものを保護して活用する。そんな社会を実現するためには、国民一人ひとりが、知的財産に関する最低限の知識と、それ以上に知的財産は大事だと意識することが重要だと感じています」

偽ブランド品の転売で区議が書類送検された事件や、動画サイトYoutubeに漫画を無断投稿したとして中学生が逮捕された事件など、著作権をめぐる問題は、近年、ますます増加している。陳内さんは、「著作権に関する事件の多くは、知的財産に関する知識や理解が不足していることが原因」だと警鐘を鳴らす。

「ネタバレのゲーム実況で配信者が逮捕された事件がありましたが、ゲームは、著作権法の保護対象となる著作物です。ゲーム制作会社によっては、ゲーム実況のガイドラインを定めています。ガイドラインに沿った形で実況を行う場合は、著作権侵害に該当しないため問題ありません。

このケースでは、『エンディング部分の映像は配信禁止』というガイドラインに違反したため、著作権侵害の疑いで書類送検されてしまったわけです」

山口大学は2013年から知的財産教育を必修化するシステム「山口大学知的財産教育プログラム」を開始した。文系・理系を問わず、全8学部の1年生全員が、知的財産に関する知識やその活用方法を学ぶ。

その授業の中では、そうした最近の著作権の事件のニュース等が盛り込まれ、学生が問題を自分事として感じられるよう工夫されている。

全学部の学生に対して知財教育を学ぶカリキュラムを必修化し、その上で、知財展開科目として「特許法」や「知財情報の分析と活用」等の科目も幅広く、提供しているのは、全国で山口大学だけである。

そこで、山口大学では、2018年より、社会人向けにこの科目群を公開し、土・日の授業を開始。これにより、平日に仕事をしている方々も週末に集中して学習できるようになった。 「知的財産は、経済の発展や社会の進歩に欠かせないものであり、知的財産教育の充実が、持続可能な社会の実現に貢献すると考えています」

ケーススタディから知的財産について学ぶ「山口大学知財教育プログラム(履修証明プログラム)」

オンデマンド授業の風景

知財展開科目「農業と知的財産」のオンデマンド授業教材より抜粋

新型コロナウイルス感染症が全世界に広がる中、山口大学の知的財産教育プログラムは感染予防対策として、対面授業のみからオンラインでも受講可能な形へと切り替わった。

オンライン化以降、山口大学の知的財産教育プログラムには、全国各地から講座を履修する人の数が増加。

「地理的な制約に縛られることなく、知的財産に関する知識を深める機会を広げることができました。専門家を目指すというより、知的財産に関する基礎知識を身につけたいという方が多いです」

プログラムには、20代の若手から70代のシニアまで、幅広い世代の人々が参加。一般企業の社員だけでなく、他大学職員や高校教諭を含む多くの社会人が、知的財産教育を自らの業務に活用する目的で受講している。

プログラムの履修モデル

この社会人向け山口大学の知的財産教育プログラムでは、学生は必修科目「知的財産入門(1単位)」を履修し、これに加えて、著作権法、商標法、コンテンツ産業と知的財産などの選択科目から7単位以上を履修することで修了となる。

プログラム受講者は、山口大学の学生と一緒に授業を受けるため、新たな気づきを得るきっかけになっている。

「知的財産というと、とっつきにくいイメージを持たれるかもしれません。初めて学ぶ方でも楽しく学べるよう、事例を取り上げながら解説していきます。『なぜ著作権法に違反するのか』『どのように対処すべきか』、学生同士でディスカッションする時間も多く設けているので、理論だけでなく実践的なスキルも身につけられるんです」

過去に起きた知的財産訴訟のケーススタディを通じて、知的財産の基本的な概念だけでなく、保護の必要性と戦略的な活用方法についても学ぶことができる。

2023年4月には、社内の知的財産部をテーマにした日本テレビ系水曜ドラマ『それってパクリじゃないですか?』が放送され、業界内では大きな話題となった。このドラマは、著作権や特許権などの知的財産権がビジネスや日常生活にどのように影響を及ぼすかをコミカルに伝えている。

「2002年の知財立国政策から20年経って、ようやく知的財産の重要性が一般にも浸透し始めています。知的財産権の適切な管理が企業の競争力強化に不可欠であることは間違いありません。特許や商標、著作権などの概念が、単なる『法律用語』ではなく、実生活に密接に関連するものとして広く認識されるようになればと思います。本学のプログラムがそのきっかけになれば嬉しいです」

※ページ内の求人数は職種別に集計しています。

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